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花火大会の夜
20090818002028




8月17日(月)
晴れ



川のスライダーで河童になる。




心地よく疲れて眠りこけていると、小屋の扉を叩く音がした。



夢うつつで開けると、高校の夏休みにバイトしていたお好み焼き屋で一緒だったA子だった。



あれから30年近くも経っているというのに、あの夏休みのまんまの生なりのワンピースを着て立っていた…

俺は
眼鏡を二度かけ直して見たけれど、紛れもなくA子だった。



怪訝そうな俺に、クックッと笑い、何でこの場所が判ったか?何しに来たのか?尋ねてみたが 「なんででしょー」と、おちょくるばかりで訳も解らず、戸口に立ち、森の入り口に立ってる彼女に足が有るかどうか確めるばかりだった。





「花火、観に行かん?」


と誘われたので、ビールと煙草を買うついでに麓の町まで車で下りた。



もう辺りは暗くなっており、助手席の彼女からは汗と葡萄の香りがした。




送り火の今夜、小さな町の花火大会はにぎわっていた。



露天や商店を抜けて、花火がやや遠目に見える水源地近くの河原まで歩いた。



A子は俺が何を聞いても「まぁねー」とか「色々あったけんねー」と気のない受け答えばかりで、少し苛ついた。



ドォーンドーンと、山々に木霊する打ち上げ音と、色とりどりの花火の灯りは儚く、とても綺麗だった。




「あんねー進藤君に伝言のあるとよー」と彼女が唐突に言った。



「なんや?訳わからん」と花火を見上げたままこたえた。




「生きとかにゃんよ」

「は?」



「進藤君は生きとかにゃんとよ!みんなの分まで!」


と、訴えかける様に彼女が言い放った。



俺はハッとして、隣に座る彼女を見た、同時に
今夜一番の大輪の打ち上げの銀色の光りに照らされた彼女の姿が~みるみる薄くなり、悲しげに微笑んだかと思うと…闇の中に吸い込まれる様に、消え入った…。





汗と葡萄の残り香だけが鼻腔に残った。





俺は…最後の花火が終わるまで、河原を動けなかった。


浴衣や甚平の人波が途切れるまで、闇の河原に座って煙草を何本も吸った。


短パンが夜露で濡れていて、また熱が出て来そうだった。




しかし、胸の中に言い様のない、小さくあたたかい「何か」を感じずに居れなかった。





送り火の日
花火の轍






伝言を届けにやって来た、夏の日の少女。







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2009/08/17(Mon) | 日記 | トラックバック(-) | コメント(-) | page top↑
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