4月22日(木)
雨降りきって霧
激しい雨のロールで
一睡もできんかった。
何か悪いことしたかね?ちゅーくらいの降りようだったとよ。
まるで難破船か、見棄てられた水族館に取り残された気分でね
そんな朝、
意識が打ち上げられた先は
坪井川沿いに建つ
問屋街の元商人宿だったところに、暮らしていた頃のこと。
幾つもの小さな橋が架かるその場所は、船着き場の名残を残し石垣の階段が設けてあった。
梅雨の時期には増水し泥川の流れと化し、柳の枝さえも流されそうになるのに
夏の夜市の頃には、異国の小さな港に居る様に思えるほど不思議な場所だった。
未だに誰にも信じて貰えないのだけれど…
雨の日の話しを
近所の公園の脇に、トタン屋根の長屋があって、そこには怪しげな人たちが住んでいて、叔母から「彼処におる子とは遊んだらイカンけんね!」と訳の解らぬ命令をされとって~
俺は言い付けを
守る様な子じゃなかったから
その長屋の子供らと、びゃんびゃん遊んでいた。
夕方に親が呼びに来る奴らとは違って
日が暮れても遊べる
「ともだち」だった。
或る夏の日、、
夜市の帰りに、その長屋の子供がひとり川に落ちた!と大騒ぎになった。
消防団や警察も出ての捜索にも関わらず…その女の子は行方不明。
近所の話しでは狂言だとか、魚に喰われたとか奇々怪々な噂で、その夏は持ちきりだった
暫くして長屋は解体され
公園横には剥き出しの水道管だけが残る空き地が出来て
当然、その女の子の家族とおぼしき人たちも居なくなった。
いつも煤けた顔で
カーテンの端切れで作った様な赤いスカートをはいてた子…
次の年のちょうど今ごろ
それこそ、どしゃ降りの日に
俺は風邪を拗らせて
学校を休んどった。
激しい雨音の中、川に面した和室で少年キングを読みながら、独りぼんやりとしとった。
すると
川岸から
バシャッバシャッ
バシャッバシャッと
太い音がした
は?
何だろか?とサンダルを突っ掛けて
おそるおそる船着き場へ行き川面に目を凝らした…
うー
忘れもしない。全長2メートルはあろうかって大きさの朱色の鯉がっ!悠々と濁った川を泳いでいるでわないかっ!
わー凄かぁー
どっから来たとだろか?
川に叩きつける雨を
かわす様にゆったりと大きく泳いでいた…
ビビって当然なはずなのに
何故だか全然恐怖を感じなかった。
そして俺は
雨に濡れたせいで
更に熱が出てきたのだった。
その夜
氷枕を作ってくれた
叔母に朦朧と話した
「たいぎゃ太か鯉の川におったとよ」
叔母が
熱のせいにしたのは言うまでもない。
今でも
どしゃ降りの雨の朝には
朱色の大きな鯉を
思い出す。
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